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霧の中の根室

雪が降っていない釧路は初めてである。と言っても、釧路に来るのは2度目だ。そして、雪の代わりに雨が降っていた。写真を撮りに朝4時に起きて空港に行き飛行機に乗ってはるばるやってきたが雨。天気予報では曇りだったのに雨。天気は容赦しない。だがしかしそんなことは気にしない。曇り空は水面を白く映し出し、雨は景色を煌びやかにする。はずだ。今回はラムサール条約登録湿地である風蓮湖に行き、エトピリカ観察を売りにしている落石ネイチャークルーズに乗り込み、水鳥を激写する。

釧路から根室へ

釧路空港から根室までは車で2時間。空港で車を借り44号線で根室に向かう。途中ヤマト運輸の宅急便センターにいき、自宅から送っておいた熊撃退スプレーを受け取る。飛行機の機内に持込めないため、陸送であらかじめ送っておいたのだ。熊撃退スプレーは北海道のホームセンターなどで購入できるようだが、今回の旅行は1泊2日しかない強行日程なので、時間節約のためにこのような賢い手段をとる。北海道では最近熊の目撃情報が多い。札幌市内にもフラフラと出没している。生存戦略で腕力を選択した野生動物には手ぶらでは敵わない。というか、大体我々は手ぶらでは色々な生物に勝てない。猫にだって勝てない。腹を空かせたヒグマにあったら折角の旅行の到達地がヒグマの胃のなかになってしまうのだ。この唐辛子成分でできたスプレーが、障害を乗り越えて正しい旅先に向かうためのツルハシとなる。

釧路から根室の旅路は次第に自然の中に入っていく形で進んでいく。釧路市街地を抜けると草原と木々が増えていき、牧場の牛や馬が視界に入るようになる。道端にはタンチョウが、空にはオジロワシが確認できるようになり、根室が近づいてくる。雨は止み、周りは霧が立ち込める。

野鳥の聖地、春国岱

ネイチャーセンターで野鳥の観察ポイントを確認し、そこから5分程度で春国岱に到着する。ラムサール条約湿地である風連呼の一部で、砂洲でできた広大な半島である。駐車場の脇に無造作に打ち立てられている木柱の上にオジロワシが門番の如く佇んでいる。車を留め、カメラをセットする。春国岱は海辺に面しているため風が強い。気温は6月にして15度程度。冷たい風がさらに体感温度を下げる。ハードシェルを上下着込んで春国岱の中に入る。

砂洲でできた広大な島の奥に、アカマツの森がそびえ立つ。立ち枯れたアカマツから醸し出される絶望感は、雨上がりの霧も手伝って幻想的な空気を醸し出している。木道を歩いてアカマツの森の中に入ると、その空気はさらに妖しく濃くなる。立ち生えている数多くのアカマツが周囲を鬱蒼と暗く取り囲んでいる中で、文字通り根元から豪快に倒れているアカマツ、立ち枯れたアカマツが入り混じる。そのありのままの森の姿は儚さと力強さが共存し、美しさとなって昇華されている。春国岱の醸し出す空気感は圧巻だった。

ちなみに、野鳥観察の聖地のはずなのに鳥はオジロワシとヒバリしかいなかった。道東の様々な場所はそうであるように、ここも本来冬が最も見応えのある場所らしい。

落石ネイチャークルーズ

落石ネイチャークルーズへの乗船は朝10:00。その30分前に集合し、乗船料を支払い準備を行う。ガイドの方から水飛沫がカメラにかかる可能性があるため、タオルなどを用意するようにアドバイスいただく。出航すると、その波の激しさにまずやられる。かなり上下を繰り返しながら船は進んでいく。「今日は波が穏やかで写真も撮りやすいと思います」というアナウンスが配布されたラジオレシーバーから聞こえる。そうなんですね。はっきりいって、写真を撮るのはかなり難しい。ピントを合わせる以前に、上下する波の中で被写体がファインダーから外れてしまう。しかし、同じく乗船した人々はそういったことを軽く凌いでいる。つまり、私が未熟なだけなのであった。

船はエトピリカの日本唯一の営巣地であるユルリ島へ向かう。途中様々な水鳥が観察できる。私が確認できただけでも「ウミガラス」「ウトウ」「ケイマフリ」「クロアシアホウドリ」「エトロフウミスズメ」が水上で休んでいたり飛び回っていたりしていた。

霧が立ち込める海上で、妖しくそびえ立つ島が見えてくる。切り立った崖に囲まれた島で現在は無人島。過去には漁師が住んでいたこともあるらしく、当時放牧されていた馬が現在は野生化して闊歩しているらしい。ユルリ島の隣には小型で同じ形のモユルリ島という島もある。いずれもエトピリカだけではなく様々な鳥の営巣が行われているとのこと。特にカモメ類の営巣が多く、船から島を見るとたまにかなりの数のカモメが飛び立つ姿が確認できる。ガイドによれば、カモメがあのように一斉に飛び立つのはオジロワシが近づいたのが理由らしく、島ではオジロワシの数が増え、カモメの数が減っているとのこと。ユルリ島は上陸禁止の天然記念物だが、調査目的などで人が入ることもある。その場合には崖をハシゴで登るらしい。

モユルリ島の周りではラッコも確認できた。絶滅危惧種。親子と思われる姿や、一匹で泳ぎながらしきりにこちらの様子を伺っている姿が確認できた。船長曰く「漁師の天敵」で、高級食材ばかり食べるそうである。船はユルリ島、モユルリ島の周りをグルグル回りながらエトピリカの成鳥を探す。途中で成長と思しき個体が真っ直ぐ海上を飛んでいく姿が確認され、ガイドの強い主張の元、船は時間をおして少し待機する。しかしながら彼は戻ってこなかった。残念ながら今回はエトピリカの成鳥は確認できず、まだ飾り羽のない若鳥のみ確認ができた。

今回は様々な条件によりあまり写真が撮れていない。しかしこの季節の根室の霧の立ち込める空気感は本当に素晴らしかった。次回は少し時間をかけてじっくり撮影する。道東へは今年の冬も何度か訪れる予定で、その際には霧とは違った空気になるだろう。

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